Vol.38 岡昭男さん「心を集めて」

「心を集めて」

天秘の会会員、元彫刻ファンド市民の会会長 岡昭男さん

 2001年(平13)、中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館に異動になりました。予想外の職場でしたが、展示室や図録で作品に触れるうちに彫刻に興味が湧き好きにもなっていきました。紅葉の頃美唄に行き、安田侃先生の作品群を目にして深い安らぎと感動を覚え、未知の世界に引き込まれました。翌年、札幌の会合でお会いした先生と名刺交換の折「旭川に先生の作品がほしいです」と突然申し出て驚かられたものでした。
 2003年、旭川市彫刻美術館で第3回中原悌二郎賞受賞作家である舟越保武展を企画しました。安田先生は東京芸術大学で舟越先生に師事しており、舟越石彫教室の学生第1号と言われています。舟越展に安田先生がいらして熱心に鑑賞されました。その先生の一挙手一投足を彫刻好きの旭川市民が見守りました。鑑賞を終えられた先生を囲んで即席の講演会が開かれ、市民たちから「何とかして先生の作品を設置したい」「そのために身銭を切ってもいい」「仲間に呼び掛け市民の力を集めてやってみたい」熱い願いが次々に出ました。それに対して先生は「市民自らが資金を集め作家や作品を決めて設置するというのは聞いたことがない、全国でも初めてではないのか、多くの人の心と考えを集めて彫刻をつくることがあってもいい、素晴らしい試みだ」と応じていただきました。
 間もなく「彫刻ファンド市民の会」が生まれました。この会には、前年発足した野外彫刻清掃ボランティア「彫刻サポート隊」のメンバーや美術愛好家が参加し、前人未到の多難な道を歩み始めました。「年間2,000円の会費で彫刻のまちづくりに参加しませんか」と街頭や会合でチラシを配り、協力を呼び掛けました。また「安田侃彫刻写真展」「安田侃講演会」「設置候補地めぐり」など多彩なイベントを開催し、多くの反響を呼び会員は着実に増えていきました。
 しかし、課題は多く簡単ではありません。○購入代金等の資金集め○購入作品や設置場所の選定○設置後の管理運営などとキリがありません。「大変なことを始めてしまった」と集まる度に頭を抱えたものです。特に資金集めは困難を極めました。設置の前年になって、「資金が厳しく、作品をあきらめざるを得ません」と先生に申し出たところ「最後まで頑張ってみなさい、できる限り応援するよ」と逆に励まされる始末で、再度、知恵を絞り合いました。
 2011年11月の旭川駅舎完成に合わせホワイトブロンズ製「天秘」を設置すると決まってからは、経済界や諸団体にも強い支援を仰ぎ、オール旭川で設置に至りました。8年間に及ぶ420人の会員、360の企業団体と関係機関の心を集めた宝物の作品です。
 「天秘」は旭川市に寄贈され、設置後発足した「天秘の会」のメンバーが隔月に清掃と鑑賞会を、設置記念日の11月23日にはコンサートを開催しています。
 設置に至るまで8年、それから10年を経てこの地に馴染んだ「天秘」は末永く市民に愛され続けていくことでしょう。