Vol.42 氏家武「安田侃さんの作品に触れて」

「安田侃さんの作品に触れて」

氏家記念こどもクリニック 氏家 武さん

 私のクリニックの玄関前(屋内)にはちょっと小さめの可愛い「相響」があります。横にはスリガラスの大きな窓があり、昼の間は柔らかな日差しが差し込み、夕方には天井のスポットライトが優しい光を浴びせ、相響は静かに横たわっています。
 当院を利用する子どもたちはみんな相響のことを「恐竜の卵」と呼んでいて、どの子も玄関をくぐったら一目散に相響に駆け寄ります。元気の良い子は卵の上に飛び乗って跨がり、しばし恐竜を退治したかのような上気分に浸ります。またある子はそっと手で触ってその柔らかな石肌の感触を楽しみます。中には、柔らかいけれどもひんやりとした石肌にそっと頬や耳を寄せながらじっとしている子どももいます。きっと白い殻の中にいる恐竜の卵の鼓動を感じ取ろうとしているのでしょう。

 私がクリニックで出会う子どもたちはどの子もみんなどこか光り輝いているところがあります。ともすれば平均的な子ども像を求める風潮が世の中にはありますが、実際にはどの子どもにも必ず個性があり、その子の得意な領域で生き生きとした輝きを見せてくれるのです。子どもたちには自由で枠にとらわれない発想と無限の可能性を持った表現力も感じられます。そして子どもが輝きを見せる領域は子どもによってさまざまであり、時にそれは芸術であったり音楽であったりスポーツであったりします。相響が私のクリニックのシンボルになってからもう15年が経とうとしており、きっと多くの子どもたちが相響に触れて刺激を受け、自分たちの隠れていた才能を開花させたことでしょう。子どもたちの成長した姿を想像すると私はとってもワクワクするのです。
 私の机の上には本や埃が山積みになっていますが、それらに紛れてとっても小さな銀色の「妙夢」が置かれてあります。これは私がまだ若かった頃に北海道マラソンに挑戦し、辛うじてゴールしたご褒美に、侃さんから直接いただいた大切な完走賞なのです。あの暑い夏の日に北海道大学のクラーク像の前をなんとか通り過ぎ、最後の直線を走り切ったところで侃さんが待っていてくれたのです。北海道マラソンそのものは苦しかった思い出しかありませんが、その努力が妙夢という形で報われたことには感謝の念しかありません。机の上の妙夢を見ると自分の若かった時のことを思い出し、どんなに辛いことでも乗り越えられるような気持ちになります。
 今の私のクリニックは創成川の直ぐ傍にあり、川の畔には侃さんの作品がたくさん並んでいます。私はこの川沿いの小道を歩くのが大好きで、天気の良い日には「天秘」の上に座ったり寝転んだりすることもあります。日が射して明るい日の夕方には天秘はすっかり暖かくなっていて、そんな時に天秘の上に横たわると極上の贅沢を味わえるのです。天秘があるのはビルの谷間ですが、その上に横たわって見上げれば真っ青な空しか見えず、無限の自由を感じ取ることができるのです。侃さんの作品はどれもこれもそれに触れる人のこころを暖かくしてくれる素敵なパワーがあると感じるのは私だけでしょうか。