Vol.44 西野鷹志「安田侃の美唄」
「安田侃の美唄」
フォトライター 西野鷹志さん
時は晩秋のパリ。シャンゼリゼ通りの両側に現代彫刻作家の作品がずらりと展示されている。そのなかで、安田侃の彫刻が存在感いっぱい、ひときわオーラを放っていた。道ゆくひとびとも作品の窪みをのぞきこみ、吸いこまれていく。
北イタリア。古代ローマ時代からの石切り場カッラーラの大理石に、かのミケランジェロはノミを打ちこみ、とても大理石の塊から彫ったと思えないキリストをいだく聖母マリア・ピエタを生んだ。安田も同じ産の白の大理石をつかい、ちかくのピエトラサンタにアトリエをかまえる。
安田は炭鉱の町・美唄で生まれ育った。炭鉱の閉山により学校の統廃合がすすんだ。その小学校跡地にある「アルテピアッツァ美唄」。ここにも彼のアトリエがあり、大理石とブロンズの彫刻が豊かな自然のあちこちに散在している。
アルテ美唄に足をはこぶと、日々の喧騒をわすれ、自由に羽ばたける、こころが静かになる。しかも大理石の白がひかり輝いて明日への希望を感じる。
年一回の人間ドックを受診する函館・五稜郭公園そばの病院。ここの緑地に安田侃のブロンズの彫刻『風』がある。まるい大きな穴とほそながい小さな穴が開き、この穴から風が吹き抜けるかのよう。
さらに院内にも作品がふたつ、そのうちのひとつが小さな白大理石の「意心帰」。やさしくて安心感があり、おもわず触ってみたくなる。これをさわればこころが休まり病院にはふさわしい。