Vol.02 加我 君孝さん「美しきアルテピアッツァ美唄を東京で想う」
「美しきアルテピアッツァ美唄を東京で想う」
東京大学医学部教授 加我君孝
今年の6月6日に東京丸の内の明治安田生命ビルのMy Plazaホールで安田侃先生の講演会がありました。東京駅の丸の内側で皇居との間の仲通りに作品が設置されたことを記念したものです。講演の内容はこれまでの歩みと世界各地に設置された美しい作品をパワーポイントで紹介し、ユーモアとウィットに満ちた楽しい講演会でした。一番前には国会議員の田中真紀子さんが座っていました。私は安田侃先生の作品が、有楽町の東京国際フォーラム広場についで、東京の中心に置かれるようになったことを嬉しく思いました。実は私と安田侃先生は美唄東高校の同級生です。私は今東京大学医学部の教授をしていますが、周囲の人たちに「私の高校の同級生に“東洋のミケランジェロ”とも言うべき、イタリアのピエトラサンダ在住の世界的彫刻家、安田侃がいる」としばしば自慢します。その作品を東京で1つや2つ鑑賞するだけではわからないので、北海道美唄市にある「アルテピアッツァ美唄」を訪れるようにすすめます。廃校になった小学校の校舎にも体育館にも校庭にも安田侃の作品が広々とした空間に展示されており、そこに自分を置くと安らぎを得、昔が懐かしくなり、「明日も自由にのびのびと生きようという気持ちになりますよ」と付け加えます。その後少し声を低くして、実は私自身が昔その小学校で勉強したこと、すぐ近くの小高い丘に炭鉱の住宅があり、そこに住んでいたこと、ニワトリと一緒に綿羊を家で飼って草のある丘へ毎日連れて行くのが私の役目であったこと、その毛からセーターを編んでもらったこと、弟も生まれたこと、雪の中の花嫁行列を見たことがあるなど懐かしく話します。
私は忙しい生活をしていますが、もし自由時間が与えられたならアルテピアッツァ美唄を訪ね、裏山へ行って寝そべって空や太陽や雲を眺め、鳥や虫の音を聞きたいというのが夢です。昔は向かいの山と川の間に石炭を運ぶ小ぶりのSLが走っていたことを思い出すでしょう。私にとってアルテピアッツァ美唄は安田侃彫刻という芸術と故郷が一緒になったものなので、世界中でも特別な“約束された土地”なのです。
イタリア・ルネサンスの万能の芸術家であり科学者であったレオナルド・ダ・ビンチの手記に「真理は太陽、太陽の下に隠れるものがない」という言葉があります。アルテピアッツァ美唄はダ・ビンチの言う太陽のような存在です。ここには思索する彫刻家・安田侃の想いが白い大理石の彫刻となって昇華されています。ダ・ビンチは「十分に終わりのことを考えよ。まず最初に終わりを考慮せよ」とも言っています。アルテピアッツァ美唄の終わりはもっともっと遠いところに見据えられているような予感がします。生き物のように成長し、季節ごとに粧いを新たにするアルテピアッツァ美唄を訪れることは楽しみなことです。