Vol.05 田村 孝子さん「極上の芸術広場で幸せな文化体験」
「極上の芸術広場で幸せな文化体験」
NHK解説委員 田村孝子
「アルテピアッツァ美唄」を初めて訪れたのは3年前の晩夏です。「きっと気に入ってもらえるに違いない。」と岩見沢の知人が案内して下さったのです。幸運にも雲ひとつない青空、人影も少なく目の前には、信じられないような豊かで、心なごむ広場アルテピアッツァがありました。それが廃校となった小学校を再生して造られたもので、世界に活躍する安田侃さんの作品が常設展示されている入場無料の彫刻公園だったのです。体育館を見て、はじめてNHKで放送されていたオーボエの宮本文昭さんの演奏風景を思い出しました。そして校舎に足を踏み入れた時、幼稚園の存在に気づきました。子どもたちは入り口にある安田さんの作品に、毎日触っているに違いないのです。子どもたちと一緒の安田さんの写真に「安田さんが子どもたちとワークショップをすることがあったら、是非知らせて下さい。」とお願いして帰りました。
何時か何時かと心待ちにしていた時、「アルテピアッツァ美唄」をサポートして行こうとNPOが立ち上がり、この4月には自然とコーヒーをゆっくりと楽しめる「カフェアルテ」と、誰もが彫刻体験のできる「ストゥディオアルテ」ができることを知りました。そして待ちに待った安田さんのワークショップが実現したのです。4月の美唄市内に対して5月の連休期間中は全国から、それも9歳の小学生から90歳のお年寄りまで、結婚記念日に御夫婦で参加した方もいらっしゃいました。安田さんの作品が好き、アルテピアッツァが好きと参加された37名の皆さんは真剣そのもの、でも実に楽しそうでした。何しろミケランジェロ以来、プロの彫刻家が使用しているものと同じデザインの作業机とイタリア製の道具で安田さんがイタリアから持ちかえった大理石(人によっては日本の軽石)を彫るというまさに極上の「こころを彫る授業」3日間だったのです。思い思いの場所で無心に石に向かう参加者に「石と会話しながら、自分の心を表現して…」とアドヴァイスしながら、寄り添うように楽しそうに豊かな時を一緒に過ごす、そんな安田さんの姿も印象的でした。彫刻が大好きと言う小学生の作品は本当に素晴らしく「彫刻家になれよ」と安田さんに褒められたほど、「家の玄関に飾る」とうれしそうに話してくれた彼の笑顔は忘れません。
この「こころを彫る授業」はこれからも毎月定期的に続けられるそうですが、もうひとつアルテピアッツァならではの催しが2005年から続けられています。「こころのふるさとアルテまつり」毎年8月のお盆の時期に開かれています。アルテピアッツァ設立のきっかけとなった安田さんの作品、生まれ故郷美唄のために創った「炭山の碑」同様、炭鉱往時に美唄と関係のあった方々が訪れる場になればとはじめられたものです。長年海外での創作活動を続けられてきた安田さんだからこそ、その大切さに気づかれたのかもしれません。今年も8月11日の土曜日に開催されます。
小鳥の声や小川のせせらぎ、木々のざわめきなど自然と安田侃さんの彫刻に囲まれたこの空間での体験は、彫刻の力を、芸術の力を実感する場となっています。作品の側に人が佇み、こどもがよじ登るそんな風景がぴったりの、人のぬくもりが自然に伝わる場でもあります。私にとっても、ゆっくり、のんびり訪れたい、そんな「アルテピアッツァ美唄」であり、いつか「こころを彫る授業」に参加してみたいとひそかに思っています。